神奈川県立湘南高校 変わらないことが最大の魅力

先日、神奈川県私塾協同組合の高校訪問にて「神奈川県立湘南高校」を訪ね、倉田幸治副校長先生にじっくりお話をうかがう機会がありました。湘南高校といえば「三兎を追え」に象徴される、学習・部活動・行事すべてに本気で取り組む校風が有名です。しかし、その背景には、どんな生徒がどのように過ごしているのか、教員はどんな距離感で関わっているのか。外からは見えにくい“湘南らしさ”がありました。
この記事では、副校長先生のお話から見えてきた
• 生徒の居場所づくり
• 自主性を支える指導のスタンス
• 行事の裏側を支える多様な役割
• 国際交流・進路の現状
• 湘南に向いている生徒、向かない生徒
などを、ていねいにまとめています。
「なぜ湘南高校は特別なのか?」
「どんな生徒が本当に伸びるのか?」
受験生、保護者、教育関係者に向けて、湘南高校の“本質”が伝わる内容になっています。








①「三兎を追え」と「居場所のある学校」
湘南高校のキーワードは、やはり「三兎(学習・部活動・行事)を追え」という校風です。
• 授業でしっかり学ぶ
• 部活動で本気で打ち込む
• 行事でも全力で楽しむ・つくる
この三つを同時に追いかけることを、学校としても、生徒自身も「当たり前」のこととして受け止めているとのことでした。その結果として、学校には自然と多様な生徒の居場所が生まれます。
前に立つのが得意な生徒だけでなく、裏方で支える生徒、企画や運営に力を発揮する生徒など、「自分の役割」を見つけやすい環境があるのだそうです。
②学習指導:自立をベースに必要なときはしっかり支援
学習面については、湘南高校は基本的に「自分で完結できる力」を重視しています。
• 課題や問題からスタートする「問題解決型」の授業
• 自分で学びを進め、仕上げることを前提にした指導
ただし、受験期になると、
• 朝の時間帯を使った個別フォロー
• 進路に応じたきめ細かいアドバイス
など、教員による支援も積極的に行われています。
進路先としては、東大・京大・一橋大・東京科学大(旧東京工業大、東京医科歯科大)・北海道、東北といった旧帝大といった最難関大学はもちろんのこと、芸術系・体育系・海外大学など進路の幅は非常に広いとのこと。
「偏差値」だけでなく、「やりたいこと」を軸に進路を考える生徒が多いのも特徴だそうです。
③運動が苦手でも大活躍できる「裏方の力」
湘南高校といえば「運動も勉強もできる万能型」というイメージを持つ方も多いかもしれません。
しかし、副校長先生のお話で印象的だったのが、「運動が苦手な子にもちゃんと居場所がある」という点です。
大規模な行事や駅伝大会などでも、前面に出る役だけではなく、
• 運営スタッフ
• 放送担当
• バックボードやステージセットの制作
• 衣装づくり・装飾
といったクリエイティブな裏方の仕事が豊富にあります。
「走るのは苦手だけれど、デザインや制作で活躍する」
「マイクを握るのではなく、放送席から全体を支える」
そんな多様な関わり方が用意されているのが湘南の行事文化だと感じました。
④「横浜翠嵐高校との違い」はどこにあるのか
先日訪問した「横浜翠嵐高校」と「湘南高校」ですが、神奈川の2トップとして比較されることも多いと思います。そんなことについてもお聞きしてみました。
「湘南高校はトップ校、横浜翠嵐高校は進学校」
そんなふうに県外の方たちはみているようです、とのお答えでした。確かにそうなのかもしれませんね。東大合格者を飛躍的に伸ばしている横浜翠嵐高校、それに比べて湘南高校はおいていかれているような印象を持つ方も多いのでしょう。
しかし、多くの方が「東大の合格者数だけでなく」その伝統の力に裏打ちされた姿を評価しているということなのかも知れません。
⑤首都圏トップ校との合同・海外プログラム
湘南高校の特色のひとつが、首都圏のトップ校との連携による海外研修です。
「首都圏公立進学校合同海外研修(“首都圏リーダーシップ海外研修”)」参加校
• 神奈川:湘南、柏陽
• 埼玉:浦和、浦和一女
• 千葉:千葉、船橋
• 東京:日比谷、都立西
夏に行われるこのプログラムでは、
• 大学での授業体験
• 英語でのプレゼンテーション・ディスカッション
など、内容は非常に本格的です。
さらに、現地で湘南のOB・OGがサポートしてくれることも多いとのことで、
卒業生ネットワークの強さがここにも表れています。
⑥文理比率:理系イメージに反して「文系も多い」
「湘南=理系の学校」というイメージを持つ方も多いかもしれませんが、
実際には文系志望の生徒もかなり多いそうです。
年度によっては文系の方が多いこともある
「理系に強い進学校」という看板はありつつも、
実際の進路はかなりバランスよく分散していると感じました。
⑦湘南に「向いている」・「向いていない」生徒とは?
慎重な言い回しではありましたが、副校長先生は「湘南に向かないタイプ」についても言及されました。
「湘南高校にあまり向いているタイプ」
• 何かに打ち込みたい
• 忙しいのは嫌いじゃない
• 仲間と一緒に何かを作りたい
という生徒には、これ以上ない舞台になる学校だとも言えます。
「湘南高校にあまり向かないタイプ」
• 行事や部活動に巻き込まれるのが苦痛なタイプ
• 常に“受け身”でいたい、あまり関わりたくないというタイプ
• 学校生活の中で自分の役割を探そうとしないタイプ
こうした生徒にとっては、
「常に何かが動いている湘南の雰囲気」は、負担になってしまう可能性があります。
⑧70分授業と行事のタイミングは「変えない」
湘南高校の象徴のひとつが70分授業です。
• 最初は湘南で授業をする教員側も「長い」と感じたが、
• やってみると「授業内で完結できる」メリットが大きい
ということで、50分授業へ変更する議論はほとんどないとのことでした。
また、多くの学校が体育祭を春に移行する中、
湘南は伝統通り夏以降の開催を続けています。
「これが湘南なんだ」という変えないことによる一貫性も、この学校の大きな特徴です。
⑨保護者との関わり方の変化
進路指導の現場では、
「昔のように、子どもが勝手に決めて親は口を出さない」という時代ではなくなっている、
という話もありました。
少子化の影響もあり、
• 家族全体で進路を考える
• 保護者が不安を抱えながらも、子どもを支える
というケースが増えており、学校側も三者面談などを通じて丁寧に関わっているそうです。
⑩SSHなど「特化校」にはあえてならない
国の指定するSSH(スーパーサイエンスハイスクール)などについては、
湘南高校としては「取りに行かない」方針だと、はっきりおっしゃっていました。
理由はシンプルです。
• 特定分野に特化しすぎると、集まる生徒の層が偏ってしまう
• 「いろんな方面に高いレベルで挑戦する生徒」が集まる湘南らしさが失われてしまう
湘南は、「理系のエリート校」ではなく、「多方面に高いレベルで挑戦する総合進学校」
であり続けたい、という強い意思を感じました。
⑪湘南生の「馬力」と先生のスタンス
副校長先生のお話で印象に残ったのが、
湘南生を形容する「馬力」「ポテンシャル」という言葉です。
• 普通に部活をやっているようでいて、その裏でしっかり勉強もしている
• 自分で「やる」と決めたら、そこからブレずに突っ走る
• 何かのきっかけがあると、一段階上のレベルに一気に飛び越えていく
そんな生徒が多いのが湘南だと感じているとのことでした。
それを支える先生方のスタンスは「手はかけすぎず、目は離さない」。
• 生徒がやりたいことは基本的に邪魔しない
• ただし、どうしても必要なときには手を差し伸べる
という、見守りつつ支える距離感が、今も変わらず受け継がれています。
⑫卒業生ネットワークという湘南の大きな財産
海外プログラムで現地の卒業生が面倒を見てくれるエピソードをはじめ、
湘南高校には非常に強力なOB・OGネットワークがあります。
• 海外研修での現地サポート
• 進学先・就職先でのつながり
• 学校行事や企画での協力
「ここにいるメリットのひとつは卒業後も続くネットワークだ」という言葉には、長い歴史と“格”のようなものを感じました。
⑬さいごに:湘南高校を目指す生徒へのメッセージ
インタビューの最後に副校長先生はこんな趣旨のお話をされていました。
「成績がいいから」「親に勧められたから」「家が近いから」
だけで湘南を選んでしまうとつらい思いをする生徒もいると思う。
自分の意思で『ここで3年間を過ごしたい』と選んだ子には、
きっとどこかに居場所が見つかります。
3年間はその子にとって、かけがえのない時間になりますから——。
湘南高校は、「どこに行くか」以上に「どう3年間を過ごすか」を問われる学校だと感じました。
• 忙しい方がむしろ楽しい
• 勉強も行事も本気でやってみたい
• 多様な仲間に囲まれて自分の可能性を試したい
そんな気持ちを持っている中学生に湘南高校はとてもよく似合う高校です。




写真は「海をイメージしたデザインが各所にある校舎」「甲子園の優勝旗」「図書館」です。とくに図書館は「ここで本を読みふけりたい」と思わせる場所でした。
訪問してみて 湘南高校はわたしの母校です。同時に湘友会という卒業生の集まりの役員として今でも学校に関わりを持っています。また、わたしの娘もこの学校の卒業生です。そういった意味で“よく知っている学校”でもあります。そんなわたしからひと言。この学校の魅力は在学時よりも卒業してからの方がよくわかるのだと思います。全国に湘南高校卒の集まりがあり、世界中にもひろがっています。ブラジルにも湘友会の支部があります。そうした卒業生のネットワークは大きいです。また、個人的にもこの高校での人間関係はずっと続いていきます。それだけ、濃い3年間を過ごすからなのでしょう。70分授業や体育祭だけでなく、対組競技、湘南体操、縄跳び・・・50年経っても変わらない、変えない良さが湘南高校にはあります。ぜひ、目指して欲しい学校のひとつです。