「青春偏差値日本一」だけじゃない。データと地域連携で未来を拓く鎌倉高校の挑戦

11月11日(火)に神奈川県私塾協同組合の学校訪問事業で「県立鎌倉高校」を訪ねてきました。岡田雅彦校長先生自らご対応いただき、様々に今の鎌倉高校についてのお話をうかがうことができました。この場を借りて心より感謝申し上げます。以下はその際の校長先生のお話をわたしなりにまとめたものです。

七里ガ浜の海を見下ろす絶好のロケーション。そして、生徒たちが誇らしげに口にする「青春偏差値日本一」というキャッチーな言葉。多くの人が神奈川県立鎌倉高校(通称:鎌高)に抱くイメージは、そんなキラキラとした青春の一コマではないでしょうか。

しかし、その華やかなイメージの裏には、これからの予測不能な社会を見据えた、より深く、挑戦的な教育内容があったのです。この記事では、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)神奈川県の進学重点エントリー校としてのユニークな取り組みや地域との深い連携など、あまり知られていない鎌倉高校の側面を掘り下げその魅力に迫ります。

目次

「スーパーサイエンス」なのに文系も主役? 新しい学びの形「文理融合」

スーパーサイエンスハイスクール(SSH)と聞くと、理系科目に特化したエリート教育を想像するかもしれません。しかし鎌倉高校は、神奈川県の県立高校として初めて「文理融合基礎枠」としてのSSH指定校となっています。これは学校の歴史に根差した必然的な進化でした。

元々、同校は「グローバル教育研究推進校」として国際理解教育に力を入れてきた歴史があります。その伝統を断ち切るのではなく、科学技術の探究と国際的な視野をいかに融合させるか。その問いへの答えが「文理融合」だったのです。

ひとつの特徴が1、2年生で文系・理系のコース選択を設けていない点。全生徒が共通カリキュラムで学ぶことで、早期に自らの可能性を狭めることなく幅広い視野を育みます。学校が生徒に求めるのは「「クリティカルシンキング」、「データ分析・活用力」、「課題発見力」などの科学的・論理的な思考法です。

これらは理系の生徒だけに必要とされるものではありません。歴史を探究するにも、社会課題を分析するにも、客観的なデータに基づき仮説を立て検証する力は不可欠です。分野を問わず課題解決能力の根幹をすべての生徒に学ばせようとしているのです。

研究テーマは「オーバーツーリズム」。地域課題が最高の教材になる

この「文理の壁」を取り払うという思想は教室の中だけに留まりません。鎌倉高校は、学校と地域社会を隔てる「壁」にも挑戦しています。

SSHの探究活動のテーマとなるのは、鎌倉市が実際に抱える「オーバーツーリズム(観光公害)」や「深沢広域緑地の保全」などの地域課題を教材に生かすして研究テーマにしています。高校生のすべてが、自分の考えだけで科学的論理的な思考法につながる問いを立てていけるとは限りません。学校によると、何の指針もなければ「イケメンとは何か?」といった、ややもすると印象集計だけで結論に結び付けるようなテーマ設定にしてしまう生徒もいると言います。

しかし、日々利用する江ノ電の混雑や、身近な自然の問題であれば、生徒はそれを「自分事」として捉え、主体的に探究を深めることができます。いずれにしても、数値化と再現性を重視した課題解決学習がテーマです。地域も教材にしてそうしたことを実現していこうと取り組んでいるのです。

「青春偏差値日本一」の本当の意味。鍵は「メリハリ」の文化

学校と地域社会の壁を取り払う思想は、学びと遊びの境界線にも新たな意味を与えています。生徒たちが誇る「青春偏差値日本一」。この言葉の本質は、彼らに深く根付いた「メリハリ」の文化にあります。


文化祭やスポーツ大会には、持てる力のすべてを注ぎ込んで全力で打ち込む。しかし、ひとたび勉強の時間になれば、驚くほど集中する。その切り替えは見事で、地域住民からも「行事の時の様子と、公民館で勉強している時の様子とでは、同じ生徒なんだけどもガラッと変わる」と好意的に見られているほどです。


この文化の根底には、楽しさの本質を問う学校の哲学があります。「楽しいことをするためには、努力しなきゃいけない」。その上で、校長は生徒にこう語りかけます。

楽しいことは誰かが与えてくれるわけじゃないんですよ。自分で楽しくしなきゃいけないんです。与えられた環境で受動的に楽しむのではなく、自らの努力と創意工夫によって、主体的に楽しみを「創り出す」力。鎌倉高校が育むのは、学問だけでなく、人生そのものを豊かにする主体性なのです。

学校が、地域の「最後の砦」に。津波警報で観光客が避難してきた日

地域との繋がりは、教育活動の範囲を越え、時に地域全体の安全を担う役割へと姿を変えます。海抜30m以上の高台に位置する鎌倉高校は、津波発生時における地域の指定避難場所なのです。その役割が現実のものとなった日がありました。今年の8月に津波警報が発令され、沿岸にいた住民や観光客が学校へと避難してきたのです。避難してきた観光客の中には、外国の方も少なからずおられたようです。

と同時に、海に近い校舎の保全、管理は大変だと校長先生はおっしゃっていました。確かに、海風をもろに受ける校地は錆などとの闘いなのかも知れません。と同時に、この抜群のロケーションの中で3年間の高校生活を送れることも鎌校生になる最大の魅力でもあるのかも知れません。

先輩の「リアル」が道しるべ。データと実体験で支える進路指導

現実社会と向き合う経験は、生徒たちが自らの未来を考える進路指導にも活かされています。進学重点校としての同校の取り組みは非常にユニークです。その象徴が、卒業生のリアルな体験談をまとめた一冊の冊子です。

そこには、「どの部活動に所属し、どのように勉強時間を確保し、どの大学・学部に進学したか」が、一人ひとり具体的に記されています。在校生にとって、これは単なるデータではありません。「知っている先輩が、こんな風に頑張っていたんだ」という具体的なロールモデルとなり、大きな安心材料やモチベーションになっています。

さらに冊子だけでなく、卒業生を招いて在校生と直接対話する機会も設けています。深い探究活動を重視する教育方針が、結果として国公立大学などが求める人物像に繋がり進学実績を上げていますが、その目的は実績そのものではありません。データに基づきながらも、決してそれだけではない。先輩から後輩へと受け継がれる血の通った経験が、生徒たちの未来への道を照らす道しるべとなっているのです。

未来を自分で考えるための場所

鎌倉高校は「青春偏差値日本一」という言葉だけでは語り尽くせない、多面的な魅力を持つ教育の場です。「文理融合のSSH」「地域課題解決への挑戦」「主体性を育む文化」「地域防災の拠点」「リアルな進路指導」。これらは個別の取り組みではなく、生徒一人ひとりが未来を自らの手で切り拓く力を養うという一貫した哲学によって繋がっています。

最後に「こんな生徒に鎌高に来て欲しい」という校長先生のメッセージを紹介します。

これからの社会はどうなるかということを自分で考えて、そこに向かって進んでいこうっていう生徒さんに来てほしいと思っています。変化が激しく、先の見えない社会。そんな中で「自分を伸ばしたい」という思いをもつそんな生徒さんにぜひ来てもらいたいです。

後書き これからの教育は、完成された知識の伝達ではなく、未知の課題を前に自ら問いを立て、仲間と協働して楽しみながら未来を「創り出す」力を育むことだと言われます。そんな教育を具現化しようとしているのが鎌倉高校なのではないでしょうか。もうすぐ100周年をむかえる伝統。七里ヶ浜を見下ろす最高のロケーション。SSHと進学重点校としての立ち位置。それらすべてが融合しての教育。

わたしたちが学校を後にする時、高2生たちが近くのプリンスホテルに向かっていました。東北大学をはじめとする大学がそこでブースを作り、生徒たちが様々な大学について知る機会が設けられているようでした。こうした機会を通じて知らなかった大学と出会って欲しいと校長先生はおっしゃいます。すばらしい取り組みだと思いました。

難易度も高く、今春入試でも1.5倍の倍率がでる学校です。そう簡単に入ることはできませんが、目指すべき学校であることは間違いありません。ただ、来春入試では1クラスの定員増が決まっているのは朗報です。少しは入りやすくなるかもしれません。

最後に、お忙しい校務の中を私どものためにお時間を使っていただいた岡田校長先生に心より御礼もう仕上げて記事を締めさせていただきます。

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