西の魔女が死んだ、つめたい夜に、おおきくなる日
私立中学受験をする生徒たちには課題図書があって、その内容(あらすじ)をノートにまとめてくる課題を日常的に課しています。この2ヶ月ほどの課題図書は以下の通りです。
西の魔女が死んだ 梨木香歩著
十数年も前の作品ですが、今でも輝きを失っていません。映画化もされています。主題は「生と死」というもの。とはいっても、小難しいことが書かれるのではなく、思春期の子どもたちに十分にわかるストーリーになっています。それでいて、最後の場面は涙なくしてはいられないものです。多感な心の持ち主である主人公まいが、西の魔女である自分のおばあちゃんから魔女の手ほどきを受けます。その場面は中学入試の問題としてもよくとりあげられます。入試に出る出ないにかかわらず、小学校高学年から中学生にはぜひとも読んで欲しい一冊です。
つめたい夜に 江國香織著
短編の集まりです。いわゆる児童文学ではなく、大学入試センター試験などにも題材としてつかわれることのあるものです。今年の小6生は女の子ばかりなので、そうした江國さんの短編小説集もおもしろく読んでくれるのではないかな、と選んだものです。どの作品もストレートにテーマを描くのではなく、日常の何気ない出来事の延長が坦々と進んでいきます。それでも、読んだ後に「あれっ」と残るものがあり。その「あれっ」が、ひとりひとり違ったものになるような作品群です。わたしは『ねぎを刻む』が好きです。
大きくなる日 佐川光晴著
これも連作短編ですが、主人公が保育園を卒園して中学を卒業するまでの、家族とその周辺の人々の物語になっています。もちろん子どもが読んでもおもしろいですが、お父さん、お母さんが読めば、子育てのヒントがあちこちにあると思います。とてもすてきな家族の物語です。たとえば、お母さんが朝のベランダで子どものジャージを干す場面など、ほんとうに日常の一瞬ですが、そこに深い心の動きが描かれ、それはそのまま世のお母さんの心にもストレートにひびくはずです。
日常の何気ないひとこま。その瞬間がどれだけ大事な時間なのか、そんなことをこの3冊は教えてくれます。中学受験の読解のチカラを伸ばすためでもありますが、こうした本を通して、小5生、小6生には「豊かな時間」ってなんだろう、ということに気づいてくれるとうれしいですね。