いのちをはぐくむ農と食
たとえば、「食べ物を選ぶ基準」という章の内容をちょっとご紹介しておきます。
『いま街で売られているいちばん安い幕の内弁当はいくらでしょうか。ご飯があり、その真ん中に梅干しがあり、蒸された塩鮭もあります。さらに真っ赤なウィンナーソーセージが二本と、真っ黄色の壺漬けが数片・・・ なんと200円台の半ばです。どうしてこんなに安いのでしょうか。・・・梅干しは中国、米はカリフォルニアの古米、アメリカでは家畜の飼料になります。サケはチリ産の養殖サケ。5年前に大量の抗生物質が入っていたと輸入禁止になったことがあります。・・・日本の食材は何もありません。これを「安い、安い」といってみんな食べているのです。』
この章では、サケのことをさらに詳しく書いています。世界でいちばん安心して食べられるサケは、北海道や東北の川に上ってくるサケです。でも、日本人はそうしたサケを食べなくなっていて、たくさんのサケ業者が廃業しはじめている。日本人はなぜ、こんなに安心、安全なサケを食べなくなったのか。それは安い養殖サケがたくさん輸入されているからなのです。おにぎりなどのさけはチリやノルウェー産のモノです。これらの国では生け簀でサケを養殖しているので、安価にサケを出荷できる。でも、病気にならないようにたくさんの薬を使っている。北海道のサケは売れないので、中国の業者がやってきて大量に仕入れていく。これを「おいしいサケ缶」として、メイドインチャイナブランドでヨーロッパに出荷している。
うなってしまいますよね。食を選択する基準が「値段」でしかない、というところに問題点があるわけです。一切れ数十円高くても、日本産のサケを食べる、そんな選択肢を持ちたいモノです。豊かな国である日本。モノがあふれかえっていて、世界中から食材が集まってくる国でもあります。でも、そんな国に住んでいる私たちが口にしているものは、実に貧しく貧弱なモノでしかないのかもしれません。豊かさの基準がどこかでおかしくなってしまった。
受験対策(この本の内容は今春もたくさんの入試で出題されました)、というだけでなく、親子で読んでいただき、「食べ物」について考えてみるきっかけにしてもらえるとうれしいです。