吉本隆明氏
ちょつと前の話になりますが、吉本隆明氏がお亡くなりになりました。吉本隆明と言ってもその著作を読まれた方は少ないと推察します。私は高3から大学生にかけて吉本隆明氏の本を読みふけった時期がありました。中でも「源実朝」という本は何度も何度も読み返した一冊です。この本が私に与えたモノははかりしれないものがあります。
ここで吉本隆明氏の思想や「源実朝」という本について話してもしかたがありません。ちょっとお伝えいておきたいのは、今時の学生さんたちはこうした本を読まなくなっているのではないか、ということです。
私の学生時代は、世間の動きとは全く関係ないところにありました。新聞も読まなかったですし、テレビはそもそもありませんでした。何をしていたかというと、吉本隆明や森有正やサルトルなんかを読みふけっていました。一生懸命にそこに書いてあることを理解しようとし、じっくりと自分の中にしずんでいくモノを見つめ続けていました。時にはそうした著述について高校で、大学で友達と議論し合っていました。演劇もやっていたので芝居も観ました。映画も本当にたくさん観ました。辻邦生や安部公房や福永武彦、島尾敏雄などの小説も読みふけりました。経済や政治などにはいっさい興味がありませんでした。
今、吉本隆明氏の著作を読み返すことは私には出来ません。読み始めたら現実世界のいろんなことが停止してしまいます。塾に来られなくなってしまいます。それほどに強烈な思想を吉本隆明氏の著作は放っているからです。学生時代はある意味で「浮き世離れ」することが出来ます。だからこそ出来ることがたくさんあるのが学生時代だと思うのです。それなのに大学3年になると就活のためといって日経を読み、ニュースを追い、世界情勢に目を向けなければいけなくなってしまうのです。本も吉本隆明氏のそれのように「毒」のあるものではなく、How to 本のようなものばかり。
これでは人生の最も根っこの部分にあるはずの「自分」を作り出さないまま学生時代を終えてしまいます。世の中が世知辛くなってしまいしかたがない部分もあるでしょう。でも、高校3年生から大学生にかけては、吉本隆明氏の著作のように「毒」をもっている本をたくさん読んで欲しいと思うのです。
4月の新学期からは月に1回はこうした人たちの著作を読む現代国語の授業を組みたいと思っています。吉本隆明氏の本も是非とも取り上げたいと考えています。miyajukuの高校生たちには是非とも吉本隆明氏の思想の一端でも良いのでふれておいて欲しいですから。