スピリットベアにふれた島
「スピリットベアにふれた島 / Ben Mikaelsen (原著), 原田 勝 (翻訳) 」鈴木出版 1,680円
読後の第一印象。とにかくおもしろかった。児童文学書をこれだけわくわくしながら読んだのは初めてかもしれない。それぐらい良い出会いの本でした。中学生の課題図書ですが、高校生やオトナにも是非とも読んでもらいたい一冊です。それと、このお話しが映画化されたらゼッタイに見に行きたいですね。アメリカの多くの学校で教材として利用されているとのこと。もしかすると、ですね
さて、内容です。舞台はアメリカ合衆国。主人公のコール・マシューズは15歳の少年。裕福な家庭に育ちながら、両親との関係はうまくいかず、何度も警察沙汰をおこしている。ある日、同級生のピーターに後遺症が残るほどの暴力をふるってしまう。本来ならば刑務所送りになるところを、アメリカ先住民の血を引く保護観察官ガーヴィーの勧めで「サークル・ジャスティス」の手続きを受ける。そして、アラスカ州南東部の無人島に1年間追放の処分となる。
無人島でピーターは自分と向き合うことになる。アラスカの厳しい自然。スピリットベアと呼ばれる巨大なシロクマ。クジラ、トリンギット族の古老エドウィン。物語の随所にアメリカ先住民の習俗も描かれていて、それらがピーターの魂をゆさぶる。「自分を変えたいのなら腹を決めろ」というガーヴィーの言葉。生命の本質。自然への敬意。コールは純粋に自分と向き合い、命の循環の中にある自分を自覚し、生きることの意味を知ります。
人間は社会的な生き物です。他者との関係の中でしか自分を構築することが出来ません。でも、少年、少女時代。他者との距離感をはかりかねて悩むのです。「・・悪いやつなんていない。ただ、怖くなって悪いことをするだけだ。時には、何かを理解しようとして、互いに傷つけ合うこともある」作中でのコールの言葉です。
もうひとつ。筆力がすごい。コールがスピリットベアと闘い、傷つき、死にそうになる場面。虫を食べ、ミミズを食べ、と命をつないでいきます。この場面は秀逸でした。
いたるところに刺激があり、感想文を書くには「種」には事欠かないでしょう。