チャーシューの月/村中季衣作
本を自由に選ばせてもよいのですが、バラバラの作品を指導するよりもある程度まとまった作品を指導する方が効果的なので、毎年の課題図書から小中学生2冊ずつを選んで読んでもらうようにしています。
まずは中学生の課題図書から「チャーシューの月/村中季衣作」です。
話は、「あけぼの園」という児童養護施設に入ってきた6歳の明希と、同室になった春から中学生になる美香を中心にすすみます。この設定に、暗い話じゃないの、とか、家族に囲まれた私には関係ない世界だし、といった先入観をいだく生徒もいるかもしれません。そうした思いは読んでいくうちに見事に裏切られます。
設定は児童養護施設ですが、あなたとあなたを愛する人との関係をもう一度考え直させるお話しです。同時に、大人に対して冷めた視線で鋭いつっこみをする美香にあなたはきっと共感するところが多いでしょう。おかれた立場は違っても、美香の視線はあなたの視線でもあるのです。
「あけぼの園」のこどもたちはみんな心に傷を負っています。父親からの虐待、親が死んでしまった、親に捨てられた等々。そして、学校でいじめられ、捨てられた親なのにそれを慕う気持ちを抑えられなかったり、と毎日を切なく暮らしています。
でも、みんな一所懸命に生きています。希望を失いつつも、明日を少しずつ探し始めていきます。クライマックスの部分で、伸也という男の子がたくさんの墓石に向かって言います。「似たようなんが、いっぱいあんなぁ。みんなおんなじような、つまんない人生をおくってきたんだろーな」この場面は児童文学らしくない迫力がありました。
例えば3.11で家族を失った人たち。消したくない記憶。しかし、いつまでもその記憶が足かせになって前に進めない。「あけぼの園」のこどもたちも同じです。そんな時、人はどうすれば良いのか。
この作品には明確な答えは示されていないかもしれません。最後まで読んでも「ほんわかした温かい気持ち」にもつつまれないかもしれません。でも、美香や伸也と同世代の中学生に是非とも読んでもらいたい一冊です。そして考えて欲しいです。
また、大人の方にも読んでいただきたい一冊です。子どもの貧困が社会問題化しています。生まれた環境で未来を失ってしまう子どもがいること。そのために私たち大人が何が出来るのかということ。そんなことを考えさせられる一冊です。大人が読んでも十分に考えさせられる本になっています。
子供さんといっしょに読んでみてください。そして、一緒にいろんなことを話してみてください。つながること、つながり続けようとすること、それがどんな意味を持っているかについいて。
本当にお薦めの一冊です。